知的経営の実践

 従来、日本企業の競争力は、製品の品質とコスト優位性にありました。しかし、近年はアジア各国企業の進出に伴いコスト 優位性がなくなり、また品質の面でも優位差がなくなってきました。そのため、競争力を維持強化するための戦略を提案する 必要に迫られ平成16年頃から知財経営という言葉が叫ばれるようになってきました。
 知財経営を一言でいえば、知的財産を活用し、事業の競争力を高めていく経営のことです。 中小企業が新製品を開発したとしても、何ら制約がない製品市場であれば、誰でも容易に参入を果たすことができます。 その結果、コスト優位性のある企業が最後に勝ち残っていき、技術開発・製造技術・生産技術に力はあるが、資金力に限り がある中小企業は、いずれ沙汰されることになります。そこで、自社の知的財産を活用し、参入障壁を設け市場をコントロールし、 そのコントロールされた市場で、さらに品質の高いものを提供し、他社と差別化を図り利益を確保していくという知財経営が 必要となってきたのです。
 中小企業は、大企業が未だ参入していないニッチな市場に参入していくことが多いでしょう。 当該市場を守るため、また大企業と市場で競合する場合でも、知財経営の導入をしっかりと考える必要があります。

知財経営の導入検討

 では中小企業であれば、どのような企業でも知財経営を導入していけばよいというのか、というとそうではありません。 競争力を向上させる手法が知財経営であり、前提として企業競争力の源泉がその技術力にあることが必要となります。 源泉が伝統、信頼、実績、人材、顧客等にある場合には知財経営には適さないでしょう。 なお、このような場合には、知的財産よりも広い概念である知的資産経営を模索することも有用と言えます。

市場参入の見極め

 知財経営の最初の一歩は、本当に市場参入してよいのか、すなわち市場規模、将来の需要予想等のビジネス的な 検討は勿論、競合会社の有無、技術動向の流れの把握等知財の側面での検討を行うことから始まります。 これを怠ると市場規模・成長が大きいものの、特許リスクも大きいという市場へ投資してしまい、 特許権行使をされることであえなく撤退せざるを得ないということにもなりかねません。
 知財面を把握するためには、特に特許の場合には特許調査を行うことは有用です。 一般的に特許調査は、出願前に自己の出願の特許化の妨げになるか否かという観点や、警告を受けた相手方の特許を 無効にするための先行技術調査という位置づけで行われてます。 しかし、特許は単に新しい技術が記載された書面というだけではなく企業が真っ先に研究開発の成果を開示する書面です。
 このような形で特許調査を利用することによって、見えざる壁が明らかになり、自社が目指すべき道が見えてくる ことでしょう。

知的財産の保護と創造

 市場へ参入するという方針が決まれば、それに向けた研究開発活動(創造活動)をしていくことになりますが、 その成果をどのようにして保護していくのかという点を次に考えなければならないでしょう。
 具体的には、開発により生まれた技術が、製品にとって必須技術であるのかを検討し、特許出願の費用に見合う 技術かを検討します。さらに、見合うような技術であれば、他社の製品を入手して分析することができるか否かという 「他社実施の検出可能性」の観点から、特許出願するのかノウハウ保護とするのかを検討することが必要となります。 検出可能性のない特許は、結局権利行使ができず、参入障壁の形成という点で意味はあまりありません。 もっとも、基本特許が極めて強力である場合等には検出可能であるが出願しないという選択やノウハウの本質を伏せて 特許出願をするということは戦略的にはあり得る話です。
 特許出願すると決定した場合、その中から基本となる特許を選別し、その特許を核に特許ポートフォリオを形成する よう、さらに研究開発活動を行なっていきます。なお、市場参入のためにいくつ特許が必要なのかというのはその業界 によって異なります。たとえば、製薬の分野では一つの製品に一つの基本特許のみで参入障壁が形成できる市場と言われて いますが、半導体分野など多数の特許が入り乱れた状態となっている市場もあります。
 一方、検出可能性がないものはノウハウとして管理することになりますが、ノウハウ流出や不正な盗用があった場合、 不正競争防止法上の保護を受けることが可能となります。 もっとも、不正競争防止法はあくまで情報が流出した場合の事後策です。また、同法で保護を受けるためには高い管理 レベルが要求されることになります。ノウハウと思われるものであっても、特許出願書類の記載の工夫により特許化で きる場合も多く存在しますので、可能な限り特許化したほうがよいでしょう。

知的財産の活用

 製品が市場に供給された後は、ここまで積み上げてきた知的財産権が活用できることになります。 競合他社が権利侵害の疑いのある製品を投入してきた場合には、特許権侵害の警告、特許権侵害訴訟等により市場参入 を阻止することができます。他社からの権利行使にはクロスライセンス契約を締結し、特許リスクをヘッジすることも 可能となります。
 また別の活用方法としては、特許取得を製品マーケティングのツールとして利用し、さらに資金調達のためのツール として利用することも有益でしょう。
 技術系の中小企業が生き残るためには、自社の強みを無形財産である知的財産(特に特許権)として捉え、これを 生かした経営をしていくことが重要といえます。

中小企業の懸念

 近年、知財経営導入をはじめとする国家の知財重視の政策により、大企業は勿論、中小企業においても知的財産の重 要性がある程度認識されてきたといえます。
 しかし、中小企業にとっては、知財重視を標榜しても、現実的には取得コスト面を無視することはできません。 中小企業にとっては、特許取得にかけられるコストに限りがあるため、開発成果を洩れなく特許化するこ とは現実的には困難といえるでしょう。
 特許出願は、出願の数によって代理人費用を含めた特許取得のための費用は増加し、また、特許出願は各国毎に行う 必要がありますので、国の数が増えればそれだけ費用がかさんでしまいます。 特許取得をどの範囲まで行うのかについては、前述の特許ポートフォリオを形成に最低限必要な範囲がどこまでで あるのかを慎重に検討する必要があります。 また、取得すべき国については、製品の商流、外国での権利行使の現実的可能性等を踏まえる必要があるといえます。 出願国の数を最低限に抑え、代わりに国内特許を複数出願し、国内特許の充実を図るというのも中小企業における 知財戦略としてはあり得ることかと思います。
 なお、中小企業の費用負担を軽減すべく、特許料の減免対象となる企業範囲の拡大、また料金の軽減期間の延長 する特許法や中小ものづくり高度化法等の改正法案が既に成立しており、平成24年に施行予定となっております。 また、中小企業に対しては各種助成がありますので、こちらも利用の検討をすればよいでしょう。

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